「お前らは助けない!」

私が小学校高学年のころのお話です。

当時は、学校から帰ってくると、どこの家庭も「外で遊んできなさい!」という風潮がありました。

私の生家、つまりお店の前は、室蘭港。
本来は遊泳できる場所ではなかったのですが、大らかな時代だったからでしょうか、小学校高学年から中学生・高校生まで、たくさんの船が行き交うこの港で泳いでいました。

室蘭に海水浴場はなかったわけではないのですが、私たち少年にとっては、とても遠いところにあったので、手っ取り早い遊び場になっていたというわけです。

そんなある日のこと。

私は、いつも通り、友達と一緒に室蘭港で泳いでいました。

そこへ、一隻の巡視艇が通りかかりました。

ほどなく、我々の身柄は巡視艇に回収されました。
「こんなところで泳いではダメだぞ!」と。

味を占めた少年たち

そして、私たちは懲りずに室蘭港を泳いでいました。

おや。

また、例の巡視艇の姿が、私たちの目にとまりました。

みなさんも少年時代を思い出してみてほしいのですが、なかなか乗る機会のない乗り物に乗るということは、ほぼすべての男子にとってワクワクする体験ではないでしょうか。

私たちも、時代が遡ったとはいっても、その例に漏れない少年たちでした。

私たちは、またあのワクワクを味わいたいとおもったのですが、普通に乗せて!と言っても乗せてくれないのが当たり前です。

そこで、私たちのうちの一人が、手をバタつかせて叫びました。

「助けて!」

私も彼に続いて、叫びました。

「助けて!」

さあ。巡視艇が引き返してきました。いよいよこの時がやってきた…と思ったのですが。

乗組員さんが、開口一番に大声で、私たちに言い放ったのです。

「お前らは助けない!ここで泳いだらダメだ!早く上がって帰れ!」

そうです。
乗組員さんは、きっと私たちの「助けて!」という口元が、ニヤニヤしていたのを見逃さなかったのでしょう。

街の大人とともに育んでくれた、室蘭港への愛着

なかなか、子供が外遊びをする環境がなくなって久しい世の中になったと思います。
それでも、私にとって、室蘭港港は遊び場でもありました。

そして、「お前らは助けない!」と言っていた乗組員さんたちも、私たちの泳ぎの力量をしっかりと理解していたのです。地域の大人が子供を見守っていた時代だったといえましょう。

室蘭港は船だらけ。子供心に楽しめた港町。

実に良い時代を、ふるさと室蘭で体験させてもらえたと思います。

(よいこのみんなはマネしないでね!)

そして、このまちで111年。このまちとともにという愛着は、こういった経験にも根ざしています。