催事でのこと

この年は、お米の生育状況があまり芳しくなかったので、お客様にはそのことをお伝えしなければならなかった。

そこにかかった生産者さんの苦労も理解できるだけに、お伝えすることが心苦しく感じていた。


生産者さんにとっては、年に一度の収穫が最も大切。

自然と懸命に向き合った成果は、一年にたった一度の、この収穫で全て決まると言っても過言ではない。

そして、収穫したお米を販売できて、ようやくその年の収入を得る。

そういう厳しさと向き合いながら、今年も出荷してくださったので、このような言い方は、心苦しくてたまったものではない。

しかし、「ひとつぶのお米にさえ、うそはつかない。」を信条とし、皆様に美味しさだけではなく、安心もお届けするのが、私の米屋としての責務であると考えている。そうして、言いにくい言葉だが、お客様に今年の作柄についてお伝えすることにした。


「お米自体は美味しいのですが、私の目から見ると、正直に言えば、前年よりは良い年ではなく…」

それでもお客様は、北海道ブランドとしてお手に取り、お求めになられた。

それでもいいから、ということなのだろう。

ただ、北海道からよりよいものをお届けしたいという気持ちと、生産者さんの苦労への思いが、私の頭を延々と行き来し続けていた。


それから、数日が経ち、私も北海道に戻らなければならない日が近づいてきた。依然として頭の中はぐるぐると思いが行き来していた。北海道から来たんだから、おいしさをお届けできずに、この催事は成功とは言えないのではないか。このまま帰るわけにはいかない。

そして、今日も店頭に立った。東京ならではかもしれないが、普段直接見かけることのない、たくさんの人たち。それに少し圧倒されながらも、声を張り上げていた。

そんな中。

お父さん


声のする方に顔を向けると、先日私がお米の出来不出来について説明させていただいたお客様の姿があった。

私は一瞬ヒヤリとした。ひょっとして、やはりお口に合わなかったのだろうか。

 

お父さんね、お米、美味しかったですよ!

私は一瞬呆気にとられたが、熱っぽく語るお客様の声に再び耳を傾けた。

お米はもちろんおいしかったんですよ。でもそれだけではなく、お父さんがね、正直に、今年のお米は去年と比較すると今一つだと教えてくれたから、その正直さでさらにおいしくなったのですよ。ありがとうございました!

「いえいえ、とんでもない!お口に合ったようでよかったです!わざわざありがとうございます!」

私は、ただただ感謝の念で声を振り絞った。

見送るお客様の手には、再び当店のお米があった。

「正直が本物」を信条にしていて、心から、良かったと思う出来事であった。